50万円のカレーは食べられなかったけれど

アルバイト先で知り合った方が、
なんとカレーのレシピを50万円で売ったことがあるそうです。
そのレシピを買った人は店を3店舗まで増やしたとか。
「テレレさんも50万円でレシピを買って、
そう言われましたが、50万円あればアルバイトはしていません。
高いような、安いような、不思議な金額です。

アルバイトを始めた頃は、みなさんマスク姿。
顔と名前がなかなか一致しませんでした。
初日にまかないをいただく時、
一か月ほど経ったある日。
カウンター越しに見慣れない顔を見つけました。
「初めましてでしょうか?」
そう声をかけると、
「爺です」
と返事が返ってきました。
私は思わず、
「初めまして、ババーです」
と返しました。
そこから自己紹介が始まり、話しているうちに同じ年だと判明。
私たち以外は、ほとんどが子ども世代か、
同世代がいるだけで、なんだかほっとしました。
その方は長年カレー屋さんを営み、
インドの話はどれも面白く、

私は他国の暮らしや文化の話を聞くのが大好きです。
そういえば、私の友人にも若い頃インドを旅した人がいます。
その人は現地で騙されたそうです。
普通なら腹が立つところですが、
「騙され方が面白かったから、もう一度騙されに行きたい」
と言うのです。
世の中には面白い人がいるものです。
インドの話を聞いていると、知らない土地へ行きたくなります。


ある日、その同世代の友人が言いました。
「いつか、まかないを作りますよ」
そして私が海苔工場の仕事へ戻るため、
本当にまかないを作ってくださいました。
しかも前日から仕込んだ、本格的なインド料理です。
「もう小川さんとは二度と会わないかもしれないから、お別れに」
そう言われて少ししんみり。
手を合わせて食事をいただこうとすると、
「今日はインド人になったつもりで」
と言われました。
アルゼンチンにも「いただきます」はありません。
故郷は日本かアルゼンチンか
私はてっきりカレーだと思っていましたが、
「これはカレーではありません」
と訂正されました。
出てきたのはダルとサブジ。
ダルは豆料理。
サブジは野菜の蒸し煮や炒め煮。
チャパティと一緒にいただきました。
辛すぎることもなく、とても優しい味。


私が想像していた「インドカレー」とはまったく違いました。
そして何より、とても美味しかったのです。
その方は
「最後の晩餐はダルがいい」
と言います。
私は最後に何を食べたいでしょう。
まだ考えたことがありません。

結局、50万円のカレーは食べられませんでした。
「それは、またいつか作ります」
と言われたのです。
私はもういないのに。
なんとも意地悪です。
でも、50万円のレシピより価値があったのは、
知らなかった国のこと。
知らなかった料理のこと。
そして同世代の友人との出会い。
また一つ、幸せな思い出が増えました。



