アルゼンチンで歯を治す——自分の居場所に戻るような感覚

 

アルゼンチンに帰ったとき、

前歯のインプラントをすることに決めました。

 

日本でやることも考えましたが、

費用のこともあり、向こうで受けることにしました。

 

けれど、理由はそれだけではなかったように思います。

 

久しぶりに戻ったアルゼンチンの空気は、

どこか体にしみ込んでくるような感覚がありました。

 

言葉も、人の距離も、

日本とは少し違っていて、

でもその違いが、どこか懐かしく感じられる場所です。

 

自分の体を預けるというのは、

思っている以上に不安なことでした。

 

とくに前歯は、人から見える場所です。

 

もし何かあったら、という気持ちは消えませんでした。

 

それでも、なぜか最後には、

ここでやろうと自然に思えたのです。

 

診察室で交わされる言葉や、

何気ないやりとりの中に、

自分が長いあいだ持っていた感覚が戻ってくるようでした。

 

治療の時間は決して短くはなく、

痛みも、緊張もありました。

 

けれど終わったとき、

ただ「治った」というだけではない感覚が残りました。

 

うまく言えませんが、

少しだけ、自分が元の場所に戻ったような気がしたのです。

 

歯を一本治しただけなのに、

それ以上の何かが整ったような、不思議な感覚でした。

 

人はどこで生きていても、

どこかに「自分の感覚がほどける場所」を持っているのかもしれません。

 

それは必ずしも、今住んでいる場所とは限らなくて、

遠く離れた場所でふと戻ってくるものなのだと思います。

 

あのときアルゼンチンで歯を治したことは、

今でもはっきりと記憶に残っています。

 

それはきっと、

自分の体と、そして自分自身に、

静かに向き合った時間だったからだと思います。

 

投稿者

  • mary

    アルゼンチン生まれ育ちの日系二世の小川(松ノ下)マリアイネスです。
    19歳でえかきの小川憲一豊実(おがわけんいちほうじつ)と結婚して来年には金婚式を迎えます。お勤めの方たちの妻とは違いまして金銭的には色々あった人生です。しあわせだったか、しあわせでなかったかはあの世へ行く瞬間にしか分からないと母親がいってました。
    価値観は個々違いますが、自分ではしあわせだと思っております。
    喧嘩を一回もしたことのないご夫婦も存在しますが、私たちは毎日のように京都育ちのえかきとは意見は合わずその違いで議論になることは多々あります。
    このような絵描きの妻ですが、どうぞよろしくお願いします

    “The Painter’s Wife”

    小川(松ノ下)マリアイネス拝

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